成人発達障害者が就労移行支援事業所の見学に行った体験談

宇樹 義子宇樹 義子

作成日 2017/03/27 更新日 2017/04/06 33,673views

就労移行支援事業所とは、障害者の一般企業への就労を支援する機関のことです。
今回は、発達障害者である私がある就労移行支援事業所の見学に行ったときの体験談を紹介します。

各地に展開する就労移行支援事業所へ

各地に展開する就労移行支援事業所へ

30歳を過ぎて発達障害の診断を受けた私。
診断の少しあと、障害者としてどう就活していこうかに悩み、藁にもすがる思いである就労移行支援事業所を訪れました。

そこは各地に事業所を展開する企業で、精神障害者、身体障害者、重複障害者が通う施設とのことでした。
パンフレットなどは洗練されており、堅実で誠実そうな雰囲気もあって「ここは信頼できそうだ」と思った覚えがあります。

見学での悲しい体験

見学での悲しい体験

なんとかして社会参加したいという焦りもあり、切実な気持ちで事業所を訪れたのですが、私はそこで悲しい経験をすることになってしまいます。

単純作業の訓練

その事業所では、精神障害者も身体障害者もみな同じスペースで訓練を受けていました。
見学のプログラムのひとつとして、いつも皆がやっているという訓練を体験することに。

用意されていた訓練は以下のようなものでした。

  • さまざまな色の小さなビーズを色ごとに分けて小袋にパッキング
  • ボールペンを分解して再び元に戻す

スタッフさんの説明によれば、
「高機能群の発達障害の人は単純作業が得意。
工場のラインなどで仕事するための集中力・注意力を鍛える訓練」
とのことでした。

私は高機能自閉症なので、確かに「高機能群の発達障害者」そのものではあるのですが…
上の説明を受けたあたりでモヤモヤとした気持ちになってきました。

一般の人には自閉症というとたとえば「何万ケタもの円周率を丸暗記できる」とか、「機械的な単純作業を驚くほどの速さと正確さでこなしてしまう」といったようなイメージのほうが強いようです。

しかし、自分の中で論理的な意味がつながらない情報はどうしても覚えられない(=丸暗記が苦手)とか、自分で意義の納得できないことをやることに強い苦痛を感じるとかいった、真逆に位置するようなタイプもいます。
私はこちらのタイプでした。

とはいっても、あのときその場でここまで分析的に状況をとらえることができていたわけではありません。

私は突発的なできごとへの素早い対処が得意でなく、対人関係の中で傷ついたり腹を立てたりしたときにそれを自分で認識するまでに時間がかかります。
このときもそんな感じでした。

自分の心の中で何かが起こっていると感じつつも、それがなんなのかわからないままでした。とっさに質問して説明を求めるということもできず、言われるままに作業を開始しました。

宇樹 義子 困っている
私は一体何をやっているんだろう。なんのために?
これが一体、世の中の誰の、なんの役に立っているの?

だんだんとそんな気持ちが胸に湧き上がってきました。

なぜか泣けてくる

きまじめな性分なので、それでも律儀にがんばって作業を続ける私。
訓練時間が終わり、作業結果をスタッフの人に見せると…

彼女は、ビーズの小袋やボールペンを大げさにひっくり返しひっくり返しして見ながら

若い女性支援者 笑顔
うーん、すごいですね!ミスも少ないし、作業が早い!とても上手ですね!

と、さも感心したかのように褒めてくれます。

私はその様子にどうしてもしらじらしさを感じてしまいました。
まったく嬉しくありません。

私自身の歴史や生き方や現状を踏まえて接してくれているようには感じられませんでした。
彼女の中にある「障害者」というイメージに対して単純に「障害者ならこうされたら嬉しいんでしょう?」という感じで働きかけられているように感じてしまったのです。

私は彼女に何か言いたい気持ちになりましたが、私が精一杯説明したところで、彼女が理解してくれるかは確信が持てませんでした。
「面倒くさい障害者だ」、あるいは、「だから障害者は面倒くさい」と思われてしまったら…

私は自分が特性上、うまく人間関係を継続できなかったり、意図せず人に不快な思いをさせてしまうことがあったりすることに深く悩んでいました。
それに、もし私がこれからここに通うようになるなら、彼女との間に最初から波を立てることは避けなければという気持ちもありました。

そこで私は精一杯彼女に気を遣って、嬉しそうな顔を装って
「ありがとうございます」
と答えたのです。

彼女は、新卒そこそこでしょうか、私よりも10ぐらい若い感じ。
むしろ「女の子」と言ったほうがしっくりくるような印象でした。
ピシッとしたスーツを身につけ、肌ツヤもいかにも健康そう。

自分はといえば、お金がないから着古してヨレヨレの、安価な衣料量販店の服。
発達障害の特性のため、新卒で挫折し、以来10年ほど挫折しつづけて今。
気づけば30を過ぎていました。

同じ人間なのに、どうしてこんなに違ってしまうんだろう。

宇樹 義子 泣いている
ああ、この人は私のような経験をせずに生きてきたし、これからもきっとしないんだろうな…
私はとても困っていて、助けてもらいたくてここに来たのになぜ、助けてもらえないばかりか支援者に対して気を遣わなければいけないんだろう?
これってちょっと… しんどいなあ…

ふと気づくと、目には涙がたまっていました。
私はこのあたりでようやく、自分が深く傷つき、悲しんでいるらしいということを知りました。

期待と現実とのズレ

私は、たとえばこんな対応をしてもらえるものと思っていたのです。

男性支援者
まず、あなたについて聞かせてください。
どんな作業が得意ですか? どんな仕事をしたいですか?
どんなことが苦手ですか?

なるほど、それならご希望のとおりの求人がありますよ。
それとも、こんなのも意外とあなたに合っていそうですが、どうですか?

不安ですか? そうですよね。
あなたにはこういう傾向があるようだという結果が出ているので、確かにこの点は不安かもしれません。
では、こういった訓練でスキルと適応力を底上げしましょう。
少しでも気になったことはどんどんおっしゃってくださいね。
私たちはあなたの就職を全力でサポートします!

私が求めすぎだったのでしょうか?
今は、彼らも彼らなりにベストを尽くしたいけれども、リソースの問題があってそうできないという事情もあるのだろう、彼らだって苦しんでいるのだろう、という程度のことは想像できます。

しかし、当時私は切実に困っていたので、本当に落胆してしまいました。

福祉的の専門家のはずなのに、福祉的な知識が足りない?

その作業所の利用料金の負担額は世帯収入によって決まっていました。
世帯収入が低いほど、実費負担額が小さくなります。

夫の収入があったため、私の世帯は私が通うなら月に数万円負担せねばならない枠に当てはまっていました。
しかし、当時大きめの出費が必要な案件が続いていたのもあり、家計にはそんな余裕はありませんでした。

お金がないから働きたいのに、働くためにお金が必要で、そのお金が出せないなんていったいどうしたらいいの…

そこで、私はあるスタッフさんにこんなことをこぼしました。

宇樹 義子 困っている
私にはまだ働く準備ができていない気がします。
ここに通うお金もしばらくは出せないから、一度障害年金の受給をする方向で動いてみようかと思います。
障害年金がとれれば、安心して二次障害の治療に専念できるし、ここに通うお金も捻出できるようになるかもしれないので…

すると、その人は子どもに噛んで含めるような口調でこう言いました。

若い男性支援者 笑顔
えー? 働きましょうよ!
自分で働いて得たお金を使うほうが楽しいですよ?
生活保護の不正受給も問題になってますし…

それを聞いて私は思わずフリーズしてしまい、「そりゃ、私だって働きたいですよ…」とやっと絞り出したあとは言葉が出なくなってしまいました。

宇樹 義子 泣いている
この人はもしかして、私のような人たちは
「働けるのに働きたくないから働かない」
「働いてお金を得ることの楽しさを知らないから働かない」
「公的扶助に甘えていたいから働かない」
のだと思っているんだろうか…

私は、喉から手が出るほど働きたいのに、私が続けられるような仕事がないからこうして困っていたのです。
そういう心境をこの人は想像したこともないのかもしれない、と思いました。

生活保護の話題についても、支給額のうち不正受給による額は1%を切っており、むしろ捕捉率が20%を切っていること(受給要件を満たす人のおよそ8割が受給できていない)のほうがずっと問題であることは、支援者でなくとも福祉に少しでも当事者感覚を持っている人なら多くが知っているもののはずです。

こうした、テレビで流布されているような程度の知識や意識のレベルでプロとして支援者をしている人がいることに、私はめまいがしそうになりました。

ショックで体調を崩す

宇樹 義子 泣いている
専門機関を謳って営業しているところにさえ、私の居場所はなかった。
ということは、この社会にはやっぱり私の居場所はないのかもしれない…

いったん持ちかけた希望がもう一度奪われたショックは大きかったです。
私は久しぶりに希死念慮に襲われ、普通の生活をこなす気力も失って、半月ほど寝たり起きたりの生活を送りました。

ようやくショックから立ち直り、少しだけ前向きな気持ちになれたのは、その後無事に障害年金を受け取れるようになり、半年ほど経ったころでした。

専門性を欠いた支援者が多い現状

専門性を欠いた支援者が多い現状

私が体感したことは、ほんとうの意味でのプロの支援者が現場に圧倒的に足りていない現状を物語っていたように思います。

そもそも、発達障害者向けの支援サービス自体がまだ勃興期にあります。
急激な需要の増加に対し、きちんとした専門性を身に着けたプロの教育・供給が間に合っていないのでしょう。
発達障害児の世界(支援級など)でも同じようなことが起きているという話も聞きました。

発達障害児者がうまく診断にこぎつけたとしても、そのあとの社会的な受け皿が整っていないのです。

現状を乗り越えていくために

現状を乗り越えていくために

絶望的にも思える発達障害者向けの就労支援の現状ですが、乗り越えるためにできることはあるはずです。

診断名ではなくその人自身を見る支援を

特性と診断名には確かに関係はあります。
でも、実際細かい部分がどうであるかは、本当に個人その人その人によります。

複数の発達障害を併発しているケースや、二次障害が複雑に絡まっているケースも。
身体障害も持っている人までいます。
本当に、十把一絡げにはいかないのです。

私としては、支援者の方々には、診断名ではなく「その人自身」を見た支援をお願いしたいです。

もしかすると、少し余裕のある当事者がピア的に支援に回るというのもひとつの方法かもしれません。
当事者のニーズは、当事者がいちばん理解している。
私が凸凹ナビで記事を書いているのには、こんな理由もあるのでした。

事前に情報を集めて

就労移行支援事業所に見学などに行くときは、ぜひ事前にいろいろな情報を仕入れておきましょう。
その事業所が出しているパンフレットや説明会の情報だけを参考にするのではなく、ネットで口コミも調べておくと安心です。

ニュートラルな口コミを知りたいときは

「○○事業所 評判」
「○○事業所 口コミ」

念のため悪い情報も知るには

「○○事業所 インチキ」
「○○事業所 詐欺」
「○○事業所 被害」

といったキーワードで検索してみましょう。

注意点として、「あくまで参考程度にとどめる」ということがあります。
ネットにたくさん書かれている意見だからといって、それが事実とは限りません。
ネットで情報を集めるときには、その点だけ注意しましょう。

あとは、利用している障害者就業・生活支援センターや発達障害者支援センターなどの支援機関の人に聞いてみるのもひとつの良い手だと思います。

根気よく複数回ってみて

最近は就労移行支援事業所がいろいろと増えてきています。
ひとつめが良いとは言えないところだったり、あなたに合わなかったりしても、ぜひ諦めないで複数回ってみてください。
いろいろなところを見て回るほどに、あなたに合ったところに出会える確率は上がるでしょう。

あなたが良い支援者・支援機関に出会えるよう、お祈りしています。

この記事のもととなった宇樹のツイートをまとめた記事はこちら:
発達障害児者の支援に関わる人には、その人自身を見た支援をしてほしい

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この記事を書いた人

宇樹 義子

宇樹 義子

成人発達障害者(高機能自閉症)。 30過ぎまで発達障害が発覚しなかったこともあり、思春期から20年ほどもろもろの二次障害に苦しみました。自身の経験をもとに、発達障害者や悩みを抱えた人に向けていろいろと発信中。 ライターの仕事のかたわら、個人ブログ「decinormal」を運営。動物が大好き!

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